気がつけば、夜陰の中には虫の声とて聞こえなくなり。
代わりに届くは、今はまだ時折の響きとはいえ、
遠く近くに風が逆巻く唸り声くらいのもの。
月が冴えるのと引き換えに、
夜気はどんどんと冷ややかさを増しており。
夕暮れの寂寥からこっちという夜の底で、
誰ぞが傍らにあることを、
こうまで安らぎと思える季節は他になく。
「………。」
衣紋越しに接する肌と肌の、仄かな微熱に気がついて。
触れてはないままな肩や脛の薄ら寒さに、
なあなあと見上げた視線で 意味深に催促すれば。
そちらは、腕の中で時折身じろぐ嫋やかな存在の
こそもそとする感触だけでも楽しめていたものか、
「?」
相変わらずの朴念仁ぶりを発揮しかかり、
蹴られかかって やっと気がつくのもいつもの段取り。
打って変わって、怒っておりますというお顔の、
細いあご先、大きな手にて掬い上げると。
精悍なお顔を近づけて、
肉薄な口元を宝のように愛でてのそっと。
最初はついばんでの軽く、
続いて、食むように吸いつけて。
「…ん。」
昼の間は、どこか棘々しくも挑発的な彼なのが。
こちらの熱にあてられるのか、
それとも片意地張ってる意味ないぞという訴えかけへ、
やっとのこと絆されてくれるのか。
その身を嫋やかにゆるめて、凭れかかってくれるので。
懐ろの中、余裕で収まる君を、
そおと抱え上げての寝床までを運ぶ。
今宵は月も早くに昇り、そのせいでか灯火も押さえていたけれど。
几帳の陰へまではさすがに月光も届かずで。
さまざまに鮮やかな衣紋や絹を敷いていた寝床も、
今は闇の中で色もない。
そこへと降ろされた青年は、
相手の腕がスルリと離れかかるのへ、
何を恐れたか一瞬自分からしがみつくよな気配を見せ。
それに気づいた葉柱が、起こしかけていた身を戻したのが、
泣きかかった子を宥めるような呼吸で気に入らなんだか。
むうと口元尖らせるのがまた、
男の側へ苦笑を誘ってやまぬ。
やだやだという駄々こねのよに、近寄る気配へ拳をあげたが、
そんなことくらいへ怖じけるような彼ではなくて。
あっと言う間に、再び双腕の中へとくるみ込まれて。
慣れた温みがどうどうどうと、
拗ねかかった気勢を穏やかに丸め込む。
すんなりと細い首もとに頬を伏せ、
ああまで強かなのに、
抱えると細い肩や背へ腕を回して掻い込めば。
こちらは夜目がずんと利くから、
柄になく甘えるような眸をするのまで、
ようよう見えての結構面映ゆいのだが。
ああ、やはり男の性というものは
こういうときにも正直で。
衣紋の腰紐、さっさと解いてやっている現金さが、
“女が相手なら、興ざめだと蹴られておるだろな。”
俺だから、可愛い奴めで済むのだぞおいと。
そんなささやかなことで、もう機嫌が直っている、
金の髪した陰陽の術師殿。
人心地つける男臭さと重みを感じつつ、
それへとすっぽりくるまれると安堵を覚えることへこそ、
苦笑が浮かんだひねくれ者へ。
青みの強い月影が、それこそかわいと苦笑した、
晩秋の夜更の一幕だった。
〜Fine〜 12.10.30.
*唐突な奴です、すいません。
ホントは、というか、
別部屋へのネタを思いついたのですが、
そちらでは
しばしこういう展開には縁が出来無さそうな様相ですので、
こちらで補完ということで。(判りにくいぞ。)
めーるふぉーむvv

|